コラムフード

「いのから始まるインサイト」 何故、ヒトは「住所非公開」の飲食店にいきたがるのか?(#3/3)

あれは、大学2年生の夏休み、短期のインターンシップが終わると、私は友人と合流して中目黒に駆け付けた。ある1冊のファッション誌の「看板のない店」特集の中で、1店だけ「番号不掲載」の店があり、探さずにはいられなかったからだ。グルメに興味のある友人に声をかけて探索を手伝ってもらったことがある。

当時はスマートフォンなどがない。掲載された住所をgoogle MAPで調べて印刷した用紙を片手に、血眼になって中目黒の住宅街を巡回した。ただ、どう考えても店があるような場所ではないのだ。看板ももちろんない。看板がない店特集なのだから自然なことであるが、看板やOOH広告の目のつくものを人間はいかにヒントにしているか分かる。

そして、掲載された住所の目の前に、確かに私たちは立っているはずであった。
でも店らしき外観はない。そこは、ただ、ロックのかかっていないマンションが1棟あった。
もしや…階段を上ってみると、怪しい1室に刮目した。
ドアの前には、店名がやはり何もないのだ。でも、どう考えても、ここしかない。
確信に変わったのは、上記のすっぽんのモチーフがかかれた表札である。
(最初は亀に見えていて、後にすっぽんだと分かる)

僕らは、その部屋のある玄関のインターホンを何度も押した。結果は留守、もしくは居留守。
その後、懲りずに日にちを変えて5回以上訪れてみたものの、一向にスキを見せない。
入れることも、店主の声すら耳にできない。ダメもとで扉に一生懸命耳を立てても、調理をしている店主の様子、お客様の談笑する気配すら感じられず、謎の和食店探しは終止符を打った。

2017年、私はこの和食店の存在をふと思い出してweb検索をした。すると、「完全紹介制」の「すっぽん○鍋コース」(¥18,000)のみを提供する和食店だということが分かった。
実に興味深いし、今最も行きたい店である。この店の扉が空けだけで涎と感動でぐちゃぐちゃになりそうだ。この暖簾をくぐれるのであれば、この先、どんな修羅場もくぐろうと思う。
その時までそうか営業していますように。(おわり)

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投稿者プロフィール

いの
いの
コラムニスト。母がアイドル、兄が俳優という環境で育ち、幼い頃から家族への劣等感と葛藤に悩む。その背景から他者の気持ちに敏感になり、他社の心理を洞察する習慣がつき、非言語コミュニケーションをビジネスに活かすために18歳でコーチング資格を取得。 消費者心理、深層心理、美意識を軸に、商品のインサイト発掘に活かして企業の商品のマーケティング・PRやキュレーターとして活動。学習院大学 文学部心理学科卒。 座右の銘:大好きなことは時計で測れる

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